最近の DVD には、ワイド版(16:9)とスタンダード版の両方が収録されているものが多い。これが70年代や80年代の映画なら迷わずワイド版のほうを見ておけばいいのだが、50年代に撮られた映画となると、事態は意外とややこしいことになる。例えば、キューブリックの『現金に体を張れ』。これなんか、日本ではスタンダード・サイズの作品として通っているがはたしてそれでいいのか。最近出たクライテリオンのブルーレイでは、この映画は唯一ヴィスタサイズで収録されている。ではこちらが正解なのかというと、そうとも言い切れない。たしかに、『現金に体を張れ』はスタンダードで撮られてはいるが、ヴィスタサイズでの上映を意図されていたと言われる。しかし、それが監督本人の意図したところだったのかどうかがイマイチわからないのだ。
同じことは、このノーマン・パナマの『拳銃の罠』についても言える。幸い、DVD にはワイド版とスタンダード版の両方が収録されているのだが、それで問題が解決したことにはならない。どっちを見るほうが正解なのか。
『拳銃の罠』は、マーヴィン・ダグラスと共同監督でコメディを撮ってきたノーマン・パナマが、はじめて単独で監督した映画である。パナマはこのあともほとんどコメディしか撮っていないので、このギャング映画は、彼のフィルモグラフィーの中では例外的な1本といっていい。しかしこれがなかなか悪くはないのだ。
ギャングのお抱え弁護士になっているリチャード・ウィドマークが、長年離れていた故郷に帰ってくる。その田舎町にある空港から、ギャングのボスを国外逃亡させるためだ。彼の弟は、自分のかつての恋人と結婚している。父親との関係も最悪だ。そういう家族の事情が微妙にプロットを左右する。強引にボスを脱出させようとしていたウィドマークだが、父親がギャングたちによって殺されたのをきっかけに、正義に目覚め、ギャングのボスを司法の手にゆだねるために、たったひとりでも彼を護送しようと決意する。
荒野で囲まれた小さな町。ギャングのボスがとりあえず拘留される保安官事務所。ボスを車で護送中に、周囲の丘から射撃してくる見えない敵(ギャングの部下であることはわかってるのだが、姿が全然見えない)。ウィドマークがギャングのボスたちと一時籠城する、荒野にぽつんと取り残されたレストラン……。道具立ては全て西部劇のものだといっていい。ストーリーも、いい意味で、西部劇のように非常にシンプルで力強い。
こういう役はウィドマークのお得意だし、ギャングのボスを演じているのがリー・J・コッブというのも申し分がない。ただ、ウィドマークの弟と、彼のかつての恋人役の俳優がいかにも地味すぎるのが残念だ。しかし、西部劇好きなら見て損はないギャング映画の佳作ではある。