【4月8日】
《神戸映画資料館 連続講座「20世紀傑作映画 再(発)見」第1回、「『市民ケーン』とは何だったのか」》
サム・ウッド『恋愛手帖』
"snowglobe" と呼ばれる雪の降るガラス玉は19世紀にはすでにヨーロッパで知られていた。それがアメリカに伝わったのは20世紀の初頭だったという。
『市民ケーン』の前年に撮られたこの映画には、死ぬ直前にケーンが手にしていたものとよく似た雪景色の入ったガラス玉が出てくるだけでなく、ジンジャー・ロジャース演じる主人公の父親が死ぬ瞬間、そのガラス玉が床に落ちる。
この映画の撮影監督はグレッグ・トーランドだった。
ハンス・ユルゲン・ジーパーベルク『ヒットラー:ドイツ映画』
ジーバーベルクの『ヒットラー:ドイツ映画』には無数の映画的記憶が散りばめられている。
7時間にも及ぶ映画の終結部で、それまで何度も登場していた頭にフィルムを巻き付けた少女(映画的記憶の象徴)が、ヒットラー犬のぬいぐるみを片手に、ルドゥー作のブザンソン眼球劇場の内部を覗き込むと、そこには雪の降るガラス玉が見える。ガラス玉のなかの雪景色に浮かび上がるのは、映画創成期にエジソンが作った〈黒いマリア〉と呼ばれる映画スタジオの姿だ。『市民ケーン』のガラス玉のイメージが手繰り寄せる無垢な少年時代が、映画の幼年期とオーヴァーラップする。少女は、楽園の樹木から滴り落ちてきた巨大な水滴のなかへと胎内回帰してゆく。そのとき彼女がそのなかで見せるポーズこそは、サイレント時代の女優メアリー・ピックフォードを有名にした祈りの仕草なのである。
割れたガラスのモティーフが繰り返されるこの映画の終盤近くで唐突に現れるこの完璧なガラス玉のイメージは一体何を意味するのか。