明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ナンニ・ロイ『祖国は誰のものぞ』『カフェ・エクスプレス』

ナンニ・ロイ『祖国は誰のものぞ』(Le quattro giornate di Napoli, 1962) ★★★


第二次世界大戦中、ナチスに占領されていたナポリ市民たちの4日間の蜂起を描いた戦争映画。放題は素直に「ナポリの4日間」でよかったのではないだろうか。


主役であってもおかしくないジャン・ソレルを、開始早々わずか数分であっさりナチスに銃殺させる(『無防備都市』のアンナ・マニャーニが中盤で撃ち殺されるように)ことで、ナンニ・ロイはこの映画の主役たちはあくまでも無名のナポリ市民であることを示してみせる。ネオレアリズモの精神を受け継いだ「無防備都市ナポリ」とでも呼ぶべき内容の映画だが、その一方で、コミカルな要素(銃撃戦の只中にいるレジスタンスの男に、危ないことはやめてくれとすがりついて邪魔をする恋人の女)や、メロドラマ的要素(役に立つことを示そうとして、手榴弾を持って敵の戦車に向かっていき、撃ち殺される幼い少年)など、様々な要素を織り交ぜて描く巧みさや*1、なによりも全体の3分の2にも及ぶ壮絶な市街戦のシーンによって戦争をスペクタクル化してみせる手付きは、ロッセリーニとは異なるこの監督のウェルメードな映画づくりを端的に示しているのだろう(まだ2本しか見ていないが)。


少年院か何かの施設から抜け出した子どもたちが、大人たちとは別に自分たちだけで、武器を持ってナチスの兵士たちと戦うエピソードがユニークだ。しかし、これも『無防備都市』に描かれている子供たちによるレジスタンス活動(ロッセリーニは画面ではほとんど見せないのだが)を、よりあざとく描いてみせたとも言える。


半ば忘れ去られている作品であるが、ゴダールが『ゴダール・ソシアリスム』のなかで引用したことでいくらか有名になった。若きベロッキオが批評家時代(?)にこの映画について批評を書いているらしい(どのような内容なのかは未確認)。


ナンニ・ロイ『カフェ・エクスプレス』(Café Express, 1980) ★★½


走る列車の中で無断でエスプレッソ・コーヒーを売り歩く男(ニノ・マンフレディ)を描いた、『祖国は誰のものぞ』とは全く異なるテイストのコメディ映画。


男は、顔を隠し、変装し、乗客に紛れ、隣の車両に逃げ込み、トイレに隠れたりしながら、車掌や鉄道警察の追及を巧みにかわして、1杯わずか数リラのコーヒーを必死で売り歩く。それはただ生活のためというよりは、名付けがたい執念に近いものに思えてくる。貧民階級のたくましい生きざまを描いたいかにもイタリア映画らしいコメディだが、正体がバレてどんどんと追い詰められていく後半もまたイタリア映画らしい情感にあふれている。



まだ全体像がさっぱり見えないが、この監督とはもう少し付き合ってみるつもりだ。

*1:もっとも、某所で語ったように、ロッセリーニの『無防備都市』も、実はコミカルな要素やメロドラマとは決して無縁ではない。