明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ジャン=ピエール・モッキー "Les Compagnons de la margurite"(67)


古文書の修復の仕事をしている男マトゥゼック(クロード・リッチ)の結婚生活は不幸だった。彼の妻は夫を顧みず、日がな一日テレビばかりを見ているような女で、彼は離婚したがっているのだが、妻は今の安穏な生活を捨てる気はない。マトゥゼックは、その神業的な文書修復のテクニックを生かして、「金がかからず、スピーディで、しかも合法的な(?)」離婚・再婚の方法を考えだす。それは戸籍簿を書き換えるという方法だった。この方法なら、離婚することなく、別の女性と再婚することができる。つまり、最初の妻と結婚していた記録がもう残っていないのだから、離婚したことにもならないというわけだ。

彼は夫婦を交換し合ってくれる相手を探していると、新聞に広告を出す。警察がその広告を見て彼に目をつける。広告を見て夫婦交換に応じてきた男は実は刑事ルルー(フランシス・ブランシュ)だった。ルルーは彼のしっぽを捕まえようとするが、知らないうちに自分がマトゥゼックの妻と結婚させられていて、彼の若くて美しい妻がマトゥゼックと結婚していることになっていることを知る。ルルーは復讐に燃えて彼をなんとかして捕まえようとする。一方、マトゼックはこの「合法的で金のかからない」離婚・再婚方法を使って、彼と同じように不幸な結婚をした人たちを幸せにしてあげようとする。こうして、彼を支持する「ひな菊の会」les compagnons de la marguerite のメンバーたちと警察とのいたちごっこが始まる・・・。

この時期のモッキーの作品にはどこか革命前夜的な雰囲気が漂っている。どこかの党が国会に提出した偽造メールの問題で日本中が大騒ぎだったが、この映画の主人公ははっきりいって文書偽造の達人。モッキーは彼を魅力たっぷりに描く一方で、彼を捕まえようとする警察権力を徹底的におちょくって描いている。眼鏡をかけた小太りのルルー刑事は、警察署のベランダにやってきた鳩をピストルで撃って、丸焼きにして食べているような男。マトゼックを捕まえるためのいわば生け贄になった彼の妻も、最後には愛想を尽かしてマトゼックの側につく。フランシス・ブランシュがとことん間抜けに演じていて、笑わせてくれる。

マトゼックの妻がテレビの前から決して離れようとしないというのも、いかにもモッキーらしい。翌年に撮られた "La grand lessive!" では、パリの屋根という屋根からテレビのアンテナを剥奪しようとするある文学教授の「闘争」が描かれることになる。 スピルバーグの『ミュンヘン』で、テロリストの情報を主人公に売る男の父親役を演じていた老俳優ミッシェル・ロンスダールが若々しい姿で登場している。

モノクロ。pal →ntsc 変換で見たが、ウルトラきれいな画質だった。


ジャン=ピエール・モッキー