明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

『地球の静止する日』


ロバート・ワイズ『地球の静止する日』(51)がリメイクされるという話は聞いていたが、オットー・プレミンジャー『バニー・レイクは行方不明』をリメイクするという企画もあるらしい。『フライトプラン』をニューロティックにしたような『バニー・レイク』の物語はたぶんいまでもそれなりに受けそうな気はする。監督のジョー・カーナハンがどの程度の人物なのかは作品を見たことがないのでよくわからない。ジェイムズ・エルロイの『ホワイト・ジャズ』の監督も任されているということは、かなり期待されている新人監督なのだろう。『M:I-3』を途中で降板した理由は知らないが、渋いB級テイストの映画を作ってきた監督が、大作主義的な映画作りに嫌気がさしたのではないか、と勝手に想像してみる。そういう監督なら、『バニー・レイクは行方不明』のリメイクも少しは期待できるかもしれない。脚本の出来が重要になると思われるが、シナリオは『クイルズ』でゴールデングローブ賞を取ったダグ・ライトが担当したとのこと。

地球の静止する日』のほうは、ヴェンダースの『ランド・オブ・プレンティ』の原案を書いてもいるスコット・デリクソンが監督することになっている。50年代の冷戦時代を背景に撮られたSFの古典をこの時代にどう描き直すのか。まあ、あまり期待しないで待っているといったところだ。

オリジナルのほうは、たしかに巨匠ではあるが作家としての魅力には欠けるロバート・ワイズの作品のなかでは、わたしのいちばん好きな一本である。バイロン・ハスキンの『宇宙戦争』(スピルバーグがリメイクした作品)とほぼ同じ頃に撮られた作品で、こちらも地球外生物の到来を描いた作品だ。宇宙船の場面で効果的に使われているテルミンの音楽が忘れがたい印象を残す。宇宙船の内部の不気味な照明も見事だった。

共産主義への恐怖からドン・シーゲルの『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(56)や『宇宙船の襲来』(58)のような侵略ものSFがはやった時代であるが、この映画が侵略ものであるかそうでないかは少し曖昧だ。宇宙船で地球にやってきた異星人(といっても外見は人間そっくりであり、その理由は作品内では特に説明されていなかったように思う)は、地球がそのもてる科学を危険な方向に発展させ、宇宙にとって脅威となることのないよう警告しにきたと語る。しかし地球人(というかアメリカ人)は、共産主義と資本主義というイデオロギーの問題にかまけていて目の前の危機を理解できない。もしも地球が平和を守らないなら、地球を丸ごと破壊するしかないと、異星人は警告して去ってゆく。異星人=共産主義者を暗に示唆するたぐいのSFとは違い、つまらぬ争いの無意味さを説くところは、『ウェスト・サイド物語』のロバート・ワイズらしい倫理的作品であるが、恐怖によって平和を押しつける宇宙人は、侵略して破壊を繰り広げる宇宙人よりもある意味たちが悪いともいえる。いまのアメリカに似ていなくもないこの宇宙人が、リメイクではどのように描かれるのか、見てみたいものだ。

ついでだが、このころワイズが撮った『捕らわれの町』(The Captive City)という作品をぜひDVD化してほしい。ワイズの映画は数多く公開されているが、例によって、フランスのシネフィルのあいだで評価の高いこういう作品に限って未公開なのはなぜなのか。わからん。