明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

News from France〜ニコラ・フィリベールの新作



ニコラ・フィリベールの新作 "Retour en Normandie"


『ぼくの好きな先生』で知られるドキュメンタリー作家ニコラ・フィリベールの新作は、ルネ・アリオの "Moi, Pierre Rivière" (「私、ピエール・リヴィエール」)の後日譚を描く映画となるようだ。

日本でも評判を呼んだ『ぼくの好きな先生』が、そのほのぼのとした内容からはかけ離れた醜い訴訟沙汰に巻き込まれてしまっていることは、日本ではあまり知られていない。あの先生によってフィリベールが訴えられてしまったのだ。このことは某所でもずいぶん以前に書いたのだが、この訴訟はいまも続いているらしい。

さて、このごたごたから逃げるようにノルマンディーの大自然のなかに戻ったフィリベールが撮った新作 "Retour en Normandie" (「ノルマンディーへの帰還」)は、ルネ・アリオによる美しい作品 「私、ピエール・リヴィエール」の登場人物たちを30年後に訪ねるという内容のようだ。 "Moi, Pierre Rivière" は、若きフィリベールが助監督としてはじめて参加した作品でもある。 "Retour en Normandie" はフィリベールにとって、まさに自己のルーツへとさかのぼって、ドキュメンタリーとはなにか、自分とはなにかを問い直す作品となっているようである。

ルネ・アリオは日本ではほとんど無名に近い監督といっていいだろう。"La vieille dame indigne"(「老婆らしからぬ老婆」)を若きゴダールがある年の映画ベストテンに選んでいることで、名前ぐらいは知っている人も多いだろうが、実際の作品を見ている人はあまり多くないはずだ。わたしはフランスで "Les Camisards"(「カミザール」)という作品をたまたまテレビで見て、非常に感銘を受けた。17世紀末のナントの勅令破棄後のプロテスタントの戦いを描いたゲリラ映画の傑作だった。「私、ピエール・リヴィエール」は、タイトルを見ればわかるように、ミシェル・フーコーによる『ピエール・リヴィエールの犯罪―狂気と理性』に触発されて撮られた作品である。19世紀フランスの寒村で起こったある尊属殺人事件の訴訟記録を通じて、フーコーが言語表現における理性と狂気を論じた書物だ。最近、続々と文庫化されているフーコーだが、この本は長らく絶版になったままである。それとも、どこかに新たに収録し直されているのだろうか。

余談だが、フランスでわたしが住んでいた町の映画館に、一度ルネ・アリオが来館するはずだったのだが、結局来なかった。その映画館には、モニカ・ヴィッティとアントニオーニもくる予定だったが、そのときも来なかった。その町に着いたばかりで、どこに映画館があるのかわからなかったときに、カネフスキーがその映画館に来たらしく、あとで悔しい思いをしたのだが、たぶんあれも予定だけで、結局来なかったのではないかと思っている。