アベル・ガンス『世界の終わり』(30)
ガンスのトーキー第一作。『地球最後の日』や、『アルマゲドン』、『ディープ・インパクト』といった作品の元祖とでもいうべきSFだが、一般には失敗作と考えられていて、ガンス本人も全然認めていなかった。
彗星が数ヶ月足らずで地球を直撃することを発見したフランスの天文学者が、新聞やラジオを通して、この事実を全世界に伝えようとする。しかし、そのため株は暴落し、市場は大混乱する。投資家たちはこうなっても金儲けのことしか考えず、政府を動かして、天文学者の一味を、世間を混乱させたテロリストとして追い詰めてゆく。
簡単にいうと、『20世紀少年』みたいな展開。キリストが磔にされるシーンから始まる(実は、芝居だとあとでわかる)、いかにも幻視者ガンスらしい黙示録的作品だが、後半、ルイ・フイヤードふうのすごい活劇になるのでびっくりする。とくに、エッフェル塔における攻防戦では、エレベーターが落下して大破するなど、かなり大がかりだ。水星が地球に接近して、各地で天変地異が起きるシーンは、暴風雨のニュース映像などを使ってごまかしているだけのチープなものだが、それでもそれなりによくできていて、バカにできない。
一方で、天文学者の弟である世捨て人のような貧乏詩人が登場するのだが、かれは兄と同じ女を愛し、女からも愛されながら、苦悩することが自分の天命なのだといって、女を兄に譲ろうとする。ガンス自身が詩人を演じているのだが、そのメランコリックで大げさな演技は、サイレント時代にこそふさわしい、古めかしいものだ。
世界大戦に突入する直前だった世界が、彗星の接近で一致団結し、最後に世界共和国の誕生が高らかに宣言されるという、ナイーブすぎる結末には唖然とさせられる(もっとも、その直後に、国際会議場は彗星の影響で崩れ去ってしまうのだが……)。
ツッコミどころは色々あるが、ガンスらしさは随所に現れている。彼を知るには見逃すことができない作品だ。それから、この映画はもともと3時間の大作だったのだが、今は、全体の約半分しかフィルムが残っていないということも、忘れてはいけない。『ナポレオン』や『鉄路の白薔薇』の監督には、1時間半はいかにも短すぎる。