明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ダニエル・シュミット、死す


ダニエル・シュミットが亡くなった。


眠れないので夜中起きてネットを見ていたら、Liberation が更新されているようなのでいってみると、シュミットの訃報がトップに出ていた。「マジかよ」と思わず口走ってしまった。病気だとは聞いていたが、まさかこんなに早く亡くなるとは思っていなかった。

土曜から日曜にかけての深夜に息を引き取ったそうだ。不思議なことに、場所が書いていない。おそらくスイスの自宅だったのだろう。64才だった。

21世紀に入ってからはあまり音沙汰がなかった。ある年代よりも下の世代の人たちは、ひょっとしたらシュミットという名前を聞いてもぴんとこないかもしれない。

わたしがはじめてシュミットを見たのは、京大のすぐ隣にある日本イタリア文化会館『ラ・パロマ』と『天使の影』が上映されたときだった。一般公開される前で、字幕をスライドであわせての上映だった。今のようにコンピュータ制御で字幕が自動式に落ちてゆく方式ではなく、まったくの手動であわせていたので、途中で字幕がずれはじめ、会場に殺気だった空気がみなぎっていたのを覚えている。まだ大学に入る前のことだった。

在学中に見た『ヘカテ』について書いた文章が「キネ旬」の「読者の映画評」欄に掲載されたことも、個人的には思い出深い。

それから、今はない扇町ミュージアムスクエアでたしか『トスカの接吻』が上映されたときだったろうか、シュミットがゲストとして来館し、観客の質疑応答に答えてくれたことがあった。あれが間近でシュミットを見た最初で最後ということになる。

シネフィルというのは、映画以外のことには嘘のように目をつぶってしまうことがある。寺山修司が短歌や戯曲も書いていることをすっかり忘れて、彼が撮った映画のことを「つまらない」といっておけばそれで事足りると考えてしまう、といったぐあいに。

シュミットは映画以外にもオペラの演出の仕事に力を入れていた。それも忘れてはいけない。幸い、ベリーニの『テンダ・ディ・ベアトリーチェ』など、彼が演出したオペラのいくつかがDVDになっている。

上は、シュミットが演出したドニゼッティの歌劇「シャモニーのリンダ」である。この写真はなんだか『ラ・パロマ』でペーター・カーンが山上でアリアを歌うあの途方もない場面を思わせるではないか。


結局、前世紀に撮られた『ベレジーナ』(99)がシュミットの遺作になってしまったようだ。まだまだ撮れそうだっただけに残念で仕方がない。

『ジュリアが消える』という新作を用意しているところだったという。見てみたかった。