明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ルクレシア・マルテルのことなど

京都駅ビルシネマで「ラテンビート映画祭2010」というのが開催されている。新作についてはほとんど見ていないのでわからないが、旧作のくくりで上映されるルクレシア・マルテルの『沼地という名の町』(2001) は、アルゼンチンでプール付の邸宅に住んでいるあるブルジョア家庭のよどんだ日常を、感覚的なイメージの連続で描いた作品で、むかしNHKのBS2で放映されたときに見て、すごく印象に残っている(調べてみたら、ホームページの2004年7月の日記にタイトルだけメモしてあった。まだこのブログを始める前だ)。全然期待していなかったので、録画しなかったことを後悔している。



ルクレシア・マルテルという名前は当時ほとんど無名で(いまもそれに近いけれど)、周りではだれも話題にしていなかった。しかし、気になったので、その次に撮った『La niña santa』(2004) という作品も DVD 化されたときに見た。『沼地という名の町』のときよりもずっと演出力は達者になっていたが、やはりこの作品にもプールが出てき、水面に惹かれる作家であるらしいことを示している。子供たちが、無垢であると同時に、悪魔的でもある振る舞いを見せるところも、『沼地という名の町』と共通するところだ。




実を言うと、わたしはこの監督のことをいままでちゃんと調べたことがなく、どういう評価を受けていているのかはもちろん、どこの生まれで何歳なのかも知らなかった。最近になって、例の「カイエ」による "Les années 2000" ベストテンで、レイモン・ベルールが『La niña santa』を、そして、「カイエ」の若手の同人らしい批評家が『沼地という名の町』を選んでいるのを知り、へぇ−、やっぱり評価されてるんだと知ったところだ。なかなか寡作な作家で、『La niña santa』の4年後に撮った『頭のない女』(もちろん未公開)が今のところ最新作だ。これも一部ではくそ味噌の評価を受けていて、なかなか期待が持てる。

ルクレシア・マルテルなんて名前を出してもだれも興味を持たないだろうと思ったので、いままで一度もふれなかったが、作品が上映されるいい機会なので、ここで簡単に紹介しておいた。気づくのが遅かったので、『沼地という名の町』の一回目の上映は終わってしまっているが、10月1日にもう一度上映があるので、興味がある人は、足を運んでみてほしい。細かいところは覚えていないので、わたしも気力があったらもう一度見たいと思っている(朝一の回なので無理かもしれない)。もっとも、完全に好き嫌いの分かれる映画だと思うので、ダメな人には全然ダメだと思う。自己責任でお願いします。


この映画祭では、ブエノスアイレスを舞台にしたコッポラの最新作『テトロ』も上映される。『コッポラの胡蝶の夢』は、野心的な失敗作という意味では面白かったが、わたしは断然この『テトロ』のほうが好きだ。

作家を志しながら、いまは挫折してブエノスアイレスに住む兄をたずねて、弟がアメリカからやってくる。ふたりのぎくしゃくした関係は、兄が完成できずに投げ出した自伝的作品をめぐって、一挙に表面化する。モノクロとカラーを使い分けて大胆にイメージをくり広げる一方で、古典的な枠組みに収まるファミリー・ロマンスをきっちりと描いてみせているあたり、コッポラなかなかやるじゃないかと言いたい。