青山真治の『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』を京都シネマで見た。青山の映画は、最近は、3本に1本ぐらいしか劇場で見ていない。これも知らない間に封切りが終わっていたので、しまったと思っていたのだが、調べてみたら、京都シネマで1週間ほどかかっていたので、『樋口一葉』のついでに見に行ったのだった。
すごいノイズ音とともに、強い浜風に吹かれて砂埃の舞う砂丘のなかを、異様な風体をしたふたりの人物が、海から引き上げて帰ってくる場面から映画は始まる。中央アジアの騎馬民族が暮らしているようなテントのなかでは、食べかけの食事に蠅がたかり、そばに男の死体が転がっている。ふたりは死体を見てもまったく驚いた様子を見せない。それに罹ると自殺したくなるという「レミング病」(寺山修司?)が発生し、世界は終末を迎えているのだ。
ふたり(浅野忠信と中原昌也)はあたりに落ちているがらくたを振り回したり、たたいたりしては、それがたてる音色に子供のように興奮する。彼らはそんな風にして音を収集して回っているのだ。ふたりが世界的に有名なノイズ・ミュージシャンであることがやがてわかってくる。そして、彼らの作り出す騒音=音楽がどうやらレミング病を治癒する効果があるらしいことも。
やがて、ふたりがたまり場にしている岡田茉莉子が経営するレストランに、筒井康隆、宮崎あおいの親子と、そのボディガードのような男の三人組が現れる。宮崎もまたレミング病にかかっており、彼らは浅野と中原の音楽の噂を聞いて、ここにやってきたのだった・・・。
こんなことを言うと怒られるかもしれないが、雰囲気はリュック・ベッソンの『最後の戦い』のような作品に似てなくもない。「死」と「再生」の物語は、『ユリイカ』や『月の砂漠』のテーマを変奏するものだ。緊張感をはらんだレストランの空間は『Helpless』の喫茶店を思い出させる。この物語に『ユリイカ』ほどの説得力はないが、ノイズが病原菌を殺すのではなく、むしろその餌でしかないという設定は、なかなかリアルだ。
ひさしぶりに田村正毅の撮影を見たが、あいかわらずすごい。しかし、先日プラネットで見たストローブの『労働者たち、農民たち』のレナート・ベルタのキャメラに比べたらまだまだである。田村の撮影はまだ美しさに甘えている。
浅野と中原のノイズ音楽のライヴはなかなかの見物だったが、わたしが一番感動したのは浅野が耳を傾けるステレオ装置から聞こえてくるナンシー・シナトラの "End of the World" だった。小学生でも聞き取れそうなシンプルな歌詞が胸にしみいってきて思わず泣きそうになった。『キル・ビル』の冒頭で流れる "Bang Bang" にもやられたが、この曲にもやられた。数年前に TSUTAYA でナンシー・シナトラのCDをリクエストしたことがあるのだが、さんざん待たされたあげく、結局入手不可とのことだった。リクエスト100%かなえますと豪語しているくせにこのていたらくだ。
昔のことなのですっかり忘れていたが、思い出してしまった。あれはたしか ”Boots” という洋盤のアルバムだったと思うのだが、Amazon で調べてみたらいつの間にか日本版がでていた。しかし、”End" は入っていない。いくつかベスト・アルバムが出ているが、この曲が入っているものはほとんどない。どのベスト盤も一長一短といった感じで、これといったものがなくて迷ってしまう。そのなかで一番よさそうなのは、"Essential Nancy Sinatra" という洋盤だ。全部で26曲(下を参照)と収録曲数は一番多いし、選曲もつぼを押さえている。ただしこれにも "End" は入っていない。
- Bang Bang
- Sugar Town
- Somethin' Stupid
- Highway Song
- Kind Of A Woman
- Love Eyes
- Did You Ever?
- Flowers In The Rain
- In Our Time
- Drummer Man
- Lady Bird
- I Love Them All (The Boys In The Band)
- These Boots Are Made For Walkin'
- How Does That Grab You, Darlin'
- Fridays Child
- Jackson
- You Only Live Twice
- Hook & Ladder
- Some Velvet Morning
- So Long, Babe
- God Knows I Love You
- Here We Go Again
- 100 Years
- Let Me Kiss You
- Machine Gun Kelly
- Shot You Down
しかたがない、これと "End" のはいっている『イン・ロンドン』あたりを押さえることにするか。両方ともついこの間発売になったばかりのものだ。ブーム再来、か?