明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

西部劇を中心に〜『Wichita』『The Last Hunt』ほか

ジャック・ターナー『Wichita』(『法律なき町』)


ターナーが撮った5本あまりの西部劇のなかでおそらくもっとも有名な一本。簡単にいうと、OK牧場の決闘以前のワイアット・アープの物語だ。わたしがいちばん驚いたのは、ワイアット・アープを演じるジョエル・マクリーが30年代の面影をまったく感じさせないほど老けて見えたことだ。

この映画のワイアット・アープは、まだ保安官になっていない。というか、これからなるところである。通りすがりの町ウィチータで、銃の腕前と正義感を買われて彼は保安官になるのだが、何人たりとも法を犯すことを許さないという強引で融通の利かないやり方が、町の発展を求める実力者たちの考えと次第に相いれないものとなってゆき、ついには彼らによって命を狙われるようにまでなる。

ワーロック』や『ガンファイターの最後』を思わせる物語だが、これらの作品とくらべると古典的な風貌に収まっている。では、型どおりなのかというと、そうでもない。善玉だと思っていた人物が、物語の流れのなかで悪役にまわり、それがまた主人公を助ける側に戻ってくるといったように、人物の見え方は絶えず揺れ動いていて、定まらない。酔っぱらって浮かれたカウボーイたちが、通りで銃を乱射する場面がある。西部劇ではよく見かける場面であるが、弾が家のなかにまで飛んでくる描写に、ただならない暴力性を感じた。見たことがあるようで、その実、見たことがない場面だ。このとき、窓辺によってきた子供が流れ弾に当たって死んでしまう。この事件をきっかけに、ワイアットは渋っていた保安官のバッジをつける決心をするのだ。


バッド・ベティカー『Westbound』


Boetticher BOX には入っていないランドルフ・スコット主演の西部劇。ゴダールの『勝手にしやがれ』のなかで引用されている事でも有名だ。実はまだ見ていないので、内容についてはなにも言えない。



ラオール・ウォルシュ


『Distant Trumpet』
『Along the Great Divide』
『The King and Four Queens』
『A Lion is in the Streets』


『遠い太鼓』は見る機会が多いが、『Distant Trumpet』(『遠い喇叭』64) のほうはなかなか見る機会がなかった。合衆国によるインディアン政策をどちらかというと苦々しく描いた「砦もの西部劇」の古典だが、クライマックスでインディアンとの和平にこぎ着けるあたりは、豪快なウォルシュを楽しむことが出来る。80年に亡くなったウォルシュのあまりにも早すぎる遺作でもある。『Along the Great Divide』もまたすごいウェスタンだ。わたしは幸運にも、パリの映画館の大画面でこの傑作を見ることができた。『The King and Four Queens』も西部劇の一つに数えていいだろう。この作品も、フランスに住んでいた頃、大学内の本来なら立ち入れないはずの視聴覚室に身分を偽って入り込んで見たという思い出がある。あんなに苦労して見た作品が、今は DVD で簡単に見れてしまうというのは、複雑な気分であるが……。『A Lion is in the Streets』だけは見ていない。キャグニー主演の政治ものとのこと。


アンドレ・ド・トス『Carson City』


ランドルフ・スコット主演の西部劇。未見。


リチャード・ブルックス『The Last Hunt』(『最後の銃撃』)


リチャード・ブルックスによる驚くべき西部劇。一度見たらとうてい忘れられない作品だ。

乱獲によってバッファローの数が激減した19世紀末の西部で、最後のバファロー狩りに出かけた対照的な2人のバファロー・ハンター(スチュアート・グレンジャーとロバート・テイラー)の対立が、美しいインディアン女性(デブラ・パジェット)をめぐって緊迫感をましてゆき、ついに悲劇的な結末にいたるまでを描く。

珍しく悪役を演じているロバート・テイラーの演技が実にすばらしい。しかし、正確に言うなら、この映画のロバート・テイラーは、悪役というよりも、妄念にとりつかれた哀れむべき男として描かれている。こういうニュアンスに富んだ人間描写はほかの人物たちにも当てはまり、それがこの映画に深い陰影を与えているのだ。

バファロー狩り自体、西部劇ではあまり描かれることのない主題だが、細部の描写にも新鮮なものがある。自分がバファローを殺戮してきたことに悔恨のようなものを抱いているグレンジャーとは対照的に、殺すことに異常といってもいい喜びを覚えているらしいテイラーが、狂ったようにバファローをしとめていく場面で、熱くなりすぎたライフルの銃身を冷やすために水をかける場面などは、そんな細部の一つだ。

クライマックスの雪のなかでの決闘の場面も、数少ない雪の西部劇として記憶にとどめられる。物語にはまったく似たところがないが、アルトマンの『ギャンブラー』はこの映画をパクったものに違いない(見ればわかる)。