明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

『夜は千の眼を持つ』『Strangers in the Night』

ジョン・ファロー『夜は千の眼を持つ』(Night Has a Thousand Eyes, 47)


真夜中、鉄橋から線路に身を投げて自殺しようとする女を、恋人らしき男がぎりぎりの瞬間に駆けつけて救い出すところから映画は始まる。「空に輝く星々が千の眼のように自分を見ている。この星の下で自分は死ぬ運命なのだ」と、世迷い言のようなことをつぶやく女。男が彼女を連れてレストランに入ると、まるで2人が来ることを予期していたかのように一人の男(エドワード・G・ロビンソン)が彼らを待っている。女が自殺を図ったのは、実は、彼女は星の輝く夜に死ぬとロビンソンに言われたからだった。ロビンソンは、自分には予知能力があるのだといって、信じがたい話をし始めるのだった……。

コーネル・ウールリッチ原作の映画化。ダークな雰囲気や、回想で始まる語りは、完全にフィルム・ノワールのものだが、お話自体は現実離れしたファンタスティックな内容で、フィルム・ノワールとしては変わり種の一つと言っていい。しかし、ヴァル・リュートンのホラー映画が、ある意味、フィルム・ノワールであったことを考えるならば、フィルム・ノワールの一端にこういう作品があっても不思議ではない。しかし、ヴァル・リュートンの曖昧きわまるグレーの世界と比べると、白黒がはっきりしすぎていて、そのぶん魅力に欠けるのも確か。

関係者一同が一軒家に集まるクライマックスはミステリーによくあるシチュエーションだが、もともと起きそうにないロビンソンの予言を、全員が必死で阻止しようとするにもかかわらず、次々とそれが実現されていくところは実にサスペンスフルで、大いに楽しめる。


アンソニー・マン『Strangers in the Night』(44)


1時間にも満たないアンソニー・マン初期の作品。これ以前にミュージカル映画などを数本撮っているが、マンの実質的なデビュー作はこれなのではないだろうか。地味な作品の割には、ミニチュアを使った列車脱線事故のシーンがあったりするところがアンバランス。


一人の兵士が、文通を通じて知り合った女性に初めて会いに、戦地から帰ってくるところから映画は始まる。家を訪れると、あいにく彼女は数日不在で、母親だという老婦人と家政婦がいるだけだったが、母親は彼を歓迎し、家に泊まるよう勧める。老婦人は大広間に飾られた巨大な娘の肖像画を彼に見せてやる。その絵に描かれている女性は、彼が想像していたとおりの、いやそれ以上の美人だった。しかし、何日待っても娘は姿を見せない……。


フィルム・ノワールというよりも、ゴシック・ホラーに近い雰囲気の作品ではあるが、壁に落ちる影の使い方など、ノワール的な要素は随所に垣間見える。崖の上の一軒家で展開する数奇な物語という点では、ジョセフ・H・ルイスの『私の名前はジュリア・ロス』(あるいは『レベッカ』)と並べてみたくなる作品でもある。

むろん、これ以後のマンの傑作群と比べたらこれは小品に過ぎないし、彼らしさにもいささか欠ける作品だが、この映画での演出ぶりはすでに堂々たるもので、最後まで楽しめる。


ついでだが、"Night Has a Thousand Eyes" にはコルトレーンのアレンジで知られる曲があるように、"Strangers in the Night" はフランク・シナトラで有名な曲名でもある。どちらも映画の中では歌われない(はず)。