ガード・オズワルド『Crime of Passion』(57) ★★
リュック・ムレお気に入りの監督ガード・オズワルドによるフィルム・ノワール。
新聞記者としてのキャリアをあっさり捨てて刑事と結婚した女は、郊外で主婦として暮らす日常に早くも死ぬほど退屈しはじめる。いまや彼女の望みは唯一つ、野心などかけらもない平刑事の夫を出世させることだった。そのためなら彼女はなんでもするだろう。なんでも……。
女を演じるのはバーバラ・スタンウィック。よく理解できると同時に、理不尽でもある欲望に突き動かされる女を、いつものように見事に演じている。実直でいささか鈍感な夫の役を演じているスターリング・ヘイドンもここではなかなかのはまり役だ。二人の関係に亀裂を走らせる夫の上司役であるレイモンド・バーが、あいかわらず不気味な存在感を見せている。
強引にいうならば、『ボヴァリー夫人』をフィルム・ノワールにしたような映画である。『赤い崖』のほうが好きだが、これも悪くない。冒頭のロサンゼルスの坂道を下ってゆく路面電車のショットが期待させるほどにはロケーションが生かされていなかったのが残念。
ストーリーは良く出来てるし、キャスティングも申し分ない。当時の批評も好意的だったのだが、映画はヒットしなかった。若いプロデューサー、ハーマン・コーエンは、映画が当たらなかった理由がわからず、人々がどんなものを見ているのかを確かめるためにアメリカを旅して周る。そこで彼が知ったのは、親たちの世代が家庭でテレビに釘付けになっているいま、映画館の観客の大部分を占めているのがティーン・エイジャーだということだった。そこで彼は、若者たちをターゲットにしたホラー映画『心霊移植人間』(I Was a Teenage Werewolf, 57) を、フリッツ・ラングの編集者だったジーン・ファウラー・Jr に監督させ、大ヒットさせる。
狭義の意味でのフィルム・ノワールが終わりかけていた時代のエピソードとしてなかなか興味深い。