明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

衣笠貞之助『狂った一頁』『十字路』


京都市立博物館にて。最も有名な日本のサイレント映画。実は、今回見るのが初めて。たしかに、瞬間瞬間すごいイメージがあるのだけれど、全体的に見るとどちらも結構退屈な映画だった。ま、結局、お話はどちらも古くさい新派のそれなのだ。

両作品とも、雨のシーンがすばらしい。『十字路』では、映画のクライマックス、姉と弟が落ち延びた小屋で激しく雨が降り始める。やがて雨はやみ、弟は吉原の女への思い立ちがたく、姉をひとり残してまた女の元へと向かい(吉原の場面では、くるくると回転する大きな提灯(?)のイメージが印象的)、そこで息絶えるのだが、絶命する瞬間、幻のように雪が舞う。暗い路地をひとりの男が転げるように駆けてくる冒頭のシーンからしてどきりとさせられる。舞台となる家の、姉弟のすむ2階へとつづく階段(日本の家屋とは思えない抽象化された演劇的空間)を上ってくる男を俯瞰でとらえた後退移動撮影など、トリッキーなイメージが印象的。

『狂った一頁』の冒頭、激しい雷雨の夜、きらめく稲妻(切り抜いた紙(?)を使ったトリック撮影)、氾濫する河、精神病院で踊り狂う女狂人、病院の窓越しに不気味に揺れる大木の影などが、フランスのアバンギャルド映画のようなめまぐるしいモンタージュでカッティングされる。精神病院のなかの場面では、一転してドイツ表現主義風のキアロスクーロ。上映されたものには字幕は一切なかった(衣笠が自ら音楽を入れた75年のサウンド版)。もともとなかったのだろうか。あらかじめストーリーを確認してから見たのだが、特に後半、よくわからないイメージが展開する。知らずに見れば、誰が誰かさえわからないだろう。

『十字路』のフィルムは、ロンドンのナショナル・フィルム・アーカイブに保存されていた英語字幕版だった(原版は下加茂撮影所の火災で紛失)。