ホームページにアンドレ・ド・トスの詳しいバイオグラフィーをアップ(新発見。実は、ド・トスの最初の奥さんはヴェロニカ・レイクだった)。ド・トスは30年代から映画を撮り始めた監督だが、60年代に入ったとたん、ハリウッドから逃げるようにしてイタリアに渡り、そこでつまならない映画を撮って、やがて引退するという晩年の暗さというか、60年代以後のフィルモグラフィーのすかすか感は、ニコラス・レイを始めとする多くの50年代作家たちと重なってくる。
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リチャード・フライシャー『Trapped』(49)★★☆
フライシャー初期のフィルム・ノワール。日本ではたぶん未公開。北米版のDVDで、字幕なしの英語版で見たので、細かい部分はよくわからなかった。字幕がついていたらもっと楽しめたと思うので、残念だ。
Treasury Department のエージェントたちの活躍を描く本作は、内容的にも、そのドキュメンタリー・タッチの描写においても、アンソニー・マンの『T-Men』と比較すべき作品である(T-Men とは Treasury Men、特別税務調査官のこと)。
財務省 Treasury Department に許可を得て撮影されたその内部のドキュメンタリー映像から映画は始まり、やがてそれがフィクションへと移行してゆく。精巧に作られた偽金の原版をめぐっる T-Men とギャングたちの攻防が、むだのない演出で巧みに演出されている。主演はロイド・ブリッジスとバーバラ・ペイトン。地味だねェ。ロイド・ブリッジスは、出演作は多いが、『真昼の決闘』などの作品で、ふだんはもっぱら脇役を演じている俳優。バーバラ・ペイトンに至っては、生涯わずか十数本の映画に出演しただけの女優で、一時期はジョージ・ラフト、ゲイリー・クーパー、ハワード・ヒューズ、ボブ・ホープらと浮き名を流したらしいが、晩年は麻薬に溺れ、車の後部座席で5ドルで身体を売るような落ちぶれ方だったという。
『T-Men』もそうだが、この時期、こういうドキュメンタリー・タッチのフィルム・ノワールが数多く撮られる。『T-Men』を見ていたときも思ったが、フィルム・ノワールとドキュメンタリーは、これらの作品では危ういバランスを保っているが、下手をするとこのドキュメンタリー色はフィルム・ノワールの雰囲気を壊しかねないものをはらんでいる。こうした作品があらわれてきたことも、このジャンルの終わりを告げる徴だったのかもしれない。