明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

リチャード・フライシャー『Trapped』

ホームページにアンドレ・ド・トスの詳しいバイオグラフィーをアップ(新発見。実は、ド・トスの最初の奥さんはヴェロニカ・レイクだった)。ド・トスは30年代から映画を撮り始めた監督だが、60年代に入ったとたん、ハリウッドから逃げるようにしてイタリアに渡り、そこでつまならない映画を撮って、やがて引退するという晩年の暗さというか、60年代以後のフィルモグラフィーのすかすか感は、ニコラス・レイを始めとする多くの50年代作家たちと重なってくる。

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リチャード・フライシャー『Trapped』(49)★★☆

フライシャー初期のフィルム・ノワール。日本ではたぶん未公開。北米版のDVDで、字幕なしの英語版で見たので、細かい部分はよくわからなかった。字幕がついていたらもっと楽しめたと思うので、残念だ。

Treasury Department のエージェントたちの活躍を描く本作は、内容的にも、そのドキュメンタリー・タッチの描写においても、アンソニー・マン『T-Men』と比較すべき作品である(T-Men とは Treasury Men、特別税務調査官のこと)。

財務省 Treasury Department に許可を得て撮影されたその内部のドキュメンタリー映像から映画は始まり、やがてそれがフィクションへと移行してゆく。精巧に作られた偽金の原版をめぐっる T-Men とギャングたちの攻防が、むだのない演出で巧みに演出されている。主演はロイド・ブリッジスとバーバラ・ペイトン。地味だねェ。ロイド・ブリッジスは、出演作は多いが、『真昼の決闘』などの作品で、ふだんはもっぱら脇役を演じている俳優。バーバラ・ペイトンに至っては、生涯わずか十数本の映画に出演しただけの女優で、一時期はジョージ・ラフトゲイリー・クーパーハワード・ヒューズボブ・ホープらと浮き名を流したらしいが、晩年は麻薬に溺れ、車の後部座席で5ドルで身体を売るような落ちぶれ方だったという。

『T-Men』もそうだが、この時期、こういうドキュメンタリー・タッチのフィルム・ノワールが数多く撮られる。『T-Men』を見ていたときも思ったが、フィルム・ノワールとドキュメンタリーは、これらの作品では危ういバランスを保っているが、下手をするとこのドキュメンタリー色はフィルム・ノワールの雰囲気を壊しかねないものをはらんでいる。こうした作品があらわれてきたことも、このジャンルの終わりを告げる徴だったのかもしれない。