明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

かいぶつたちのいるところ〜ハマー・プロ覚書

「言い伝えによれば、傷痕は消えるそうだ」と、だしぬけにマットがいった。「犠牲者が死ぬと傷痕は消えてしまうんだよ」
「それは知ってますよ」と、ベンがいった。ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』でも、クリストファー・リー主演のハンマー・プロの映画でもそうなっていたことを、彼は思い出した。

スティーヴン・キング呪われた町』(集英社文庫

恥ずかしながら、「ハンマー・プロ」というのをわたしは聞いたことがないが、「ハマー・プロ」の映画なら知っている。つい最近も、まとめて何本か見たところだ。

Hammer Films については改めて説明する必要もないだろうが、トンカチのハンマーを売っている会社と間違える人もいるかもしれないので、簡単に説明しておく(ちなみに、トンカチのハンマーも綴りは同じ)。

ハマー・フィルム・プロは、事業家ウィリアム・ハインズによって1934年にイギリスで設立された。会社名は最初、ハマー・プロダクションとなっていた。「ハマー」の名称は、役者でもあったウィリアムの舞台名からとられたという。最初に製作された映画は1935年の歴史コメディ「The Public Life of Henry the Ninth」だった。この映画が製作されていたころにウィリアムは、スペインからの移民エンリケ・カレラスと出会い、ふたりでハマー・フィルムの基礎を築くことになる(マイケル・カレラスはエンリケの孫にあたる)。しかし、数年して会社は倒産。その後、ウィリアムとエンリケの息子たちによって会社は徐々に建て直されてゆき、1949年、会社名も Hammer Film Productions に改められた。

1955年、ヴァル・ゲスト『原子人間』にはじまる「クエーターマス」(「クォーターマス」と表記されることが多いが、実は正しくない)シリーズが大ヒット。この頃から、ハマー・フィルムはホラー映画を中心につぎつぎとヒット作を量産しはじめる。『フランケンシュタインの逆襲』(57)にはじまるフランケンシュタイン・シリーズ、『吸血鬼ドラキュラ』(58)にはじまるドラキュラ・シリーズなどなどであるが、この時期以後のハマー・フィルムについてはよく知られているので、省略する。もっとも、スティーヴン・キングの訳者でさえ「ハンマー・プロ」などと書くぐらいだから、一般の人は「ハマー」と聞けば、M・C・ハマーを思い浮かべるのかもしれない。しかし、映画ファンならたいていは知っているはず。もっと詳しく知りたい人は、公式ホームページを参照のこと。



ブライアン・クレメンス『キャプテン・クロノス/吸血鬼ハンター』
最近では、ジョン・カーペンターの『ヴァンパイア』など、吸血鬼狩りを主題にした作品は少なくないが、これはその走りだろうか。もっとも、戦うのは主役のキャプテン・クロノスだけで、あとはかれの補助役についているだけだ。とくにチームプレーが発揮されるわけではない。

この作品が面白いのは、ヴァンパイヤものにチャンバラの要素を取り入れていることだ。しかも、その剣を使ったアクションがまるで西部劇のように演出されている。酒場のシーンがあるのだが、そこはウェスタンでよく見かける酒場のシーンを完全に意識していて面白い。3人組の悪党が酒場でわが物顔に振る舞っているところに、クロノスがやってくる。クロノスと3人組は至近距離で向かい合う(剣を使ったアクションなので、この辺の間合いはさすがに西部劇とはちがう)。もめ事が始まったとたん、バーテンダーが物陰に隠れるところも、西部劇のお約束だ。クロノスが剣を抜いた瞬間に、3人とも首を切られている。座頭市顔負けの早業に、3人は自分が死んだことにも気づかず、最初は立ったままで、それからゆっくりと倒れてゆく(正直言うと、ここが作品のピークだった)。


テレンス・フィッシャー『血に飢えた島』
おどろおどろしいタイトルになっているが、ちゃちな怪獣パニック映画である。生体実験で生まれた怪物がつぎつぎと住民を襲うという話だ。ところが、肝心のそのモンスターがどう見ても首の長い亀にしか見えない。小さいし、動きものろいくせに、これがライフルで撃っても、ダイナマイトで爆破しても死ななくて、おまけにすぐに分裂して数が増えてゆく。かるくうざい存在だ。こいつらと戦うのがピーター・カッシング演ずる教授。50年代のハリウッド製モンスター映画と比較しても相当レベルは低い作品だが、怪物に襲われたピーター・カッシングの片腕を仲間が切り落とす瞬間は目が覚めた。


ジョン・ギリング『蛇女の脅怖』
墓場から死者たちがつぎつぎとよみがえってくるというアイデアを最初に思いついた点で記憶に値する『吸血ゾンビ』のジョン・ギリングによるホラー映画。蛇女はフランケンシュタインやドラキュラにくらべて人気はイマイチだが、妙にプロポーションがいいボディに顔だけは蛇という造形にはそそるものがある。


テレンス・フィッシャー『バスカヴィル家の犬』
ピーター・カッシングクリストファー・リーが共演したホラーふう探偵活劇。原作はもちろんコナン・ドイルピーター・カッシングシャーロック・ホームズはいささか年がいきすぎているようなきもするが、感じは出ていた。赤い乗馬服のサディスティックな若者たち、怪しげな館、底なし沼が待ち受けている湿地帯。おどろおどろしい雰囲気は抜群。


テレンス・フィッシャー『悪魔の花嫁』
クリストファー・リーが黒魔術集団の教祖を演じたオカルト作品。ハマー・フィルムの代表的作品の一つとされながら、日本では DVD が出るまでビデオ化もTV放映もされていなかったので、意外と見ている人は少ないのではないか。魔法陣を使った悪魔との対決シーンなど、テレンス・フィッシャーらしいアクション・シーンが随所にちりばめられている。人を惑わすようなラストの編集が面白い。


ロイ・ウォード・ベイカー『火星人地球大襲撃』
「クエーターマス」シリーズ第3作。これはわたしのお気に入りのハマー作品の一つ。地下鉄の工事中に、500万年前の火星人の宇宙船が見つかる。火星人はすでに死んでいたが、その怨念が人間に乗り移って悪意を目覚めさせる・・・って、これジョン・カーペンターの『ゴースト・オブ・マーズ』じゃないの? ホラーとSFを融合させた非常にユニークな作品。音響効果がすごいので、できれば劇場で見たかった。