明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

ヒューバート・コーンフィールド『Plunder Road』――ロード・ムーヴィー・ノワールの佳作


ヒューバート・コーンフィールド『Plunder Road』(57) ★½


この映画は、いわゆる "heist movie" (強奪映画)の初期の代表作の1つだが、フィルム・ノワールとして語られることも少なくない。いろいろとユニークな点があってなかなか興味深い作品である。

銀行強盗や列車強盗などを描く映画というのは、まず仲間集めがあり、次に緻密な計画が立てられ、それが実行に移されるのだが、思わぬミスや裏切りなどによって、当初の計画通りには行かなくなり、無残な結果に終わるというのが繰り返されるパターンである。

この映画が面白いのは、まだるっこしい導入部分をすっ飛ばして、いきなり強盗の場面から始まるところだ。真っ暗な夜、しかも土砂降りの中、強盗は行われる。視界も悪く、最初は何が起きているのか全くわからない。梯子車や、内部に何かわからない仕掛けが宙づりになっているトラックなどが出てくるのだが、それで何をしようとしているのか。そもそもどこから何を盗もうとしているのか。強盗犯たちの心の声がヴォイス・オフで聞こえてくる瞬間が少しあるだけで、この長い強盗シーンのあいだだれ一人台詞を口にしない(この寡黙さは、ちょっとメルヴィルの作品を思い出させる)。こうして説明も与えられないまましばらく見続けるうちにやっと、あとで金塊だと観客に知れるものをかれらが列車から強奪しようとしていることがわかってくる。今ではこういう始まり方もそう珍しくないかもしれないが、当時としてはかなり斬新だったのではないだろうか。

結局、強盗はあっさりと成功する。5人の強盗犯は盗んだ金塊を3つにわけ、それぞれ種類の違う3台のトラックに載せて運び出すのだが、途中、警察の検問などで一人また一人と脱落してゆき、捜査の網が狭まって犯人たちは追い詰められてゆく。普通、仲間が捕まったら、警察の尋問シーンがあって、仲間の名前を言う言わないというやりとりがあったりするものだ。しかし、ここではそんなシーンは一切なく、残された仲間たちも、捕まった仲間のことはあっさりと忘れて、自分たちが生き残ることだけに専念する。キューブリックの『現金に体を張れ』を少し思い出させもするこのドライな描き方は、このジャンルとしてはなかなかユニークだと思うのだが、それがドラマに緊張感をもたらしているかというとそうでもない。そもそも、5人の強盗犯たちがそれぞれ何者で、どうしてこうやって集まったのかも、最後まで説明がないというのも、斬新といえば斬新なのだが、そうしたこと全てが、結局、全体を盛り上がりの欠ける淡泊なものにしてしまっているだけという印象はぬぐえない。


面白いのは、最後に生き残ったふたりの強盗犯(そのうちのひとりは、この強奪計画を立てたリーダー)と、リーダーの情婦が、盗んだ金塊を新しい車のシートの下に隠し、残った金塊を溶かして車のホイールとバンパーに変えて色を塗ってごまかし、そうやって作ったクラッシックカーに乗って悠々と逃亡を試みるクライマックスだ。チャールズ・クライトンの傑作『ラベンダー・ヒル・モブ』(51) では、強盗犯たちは溶かした金塊をエッフェル塔の置物に変えて運びだそうとしたのだった。金塊を車に変えるというアイデアは、たぶんあの映画を下敷きにしているのではないだろうか。


都市を舞台とすることが圧倒的に多いフィルム・ノワール作品のなかには、都市と都市を結ぶハイウェイを人物たちの生きる場所(あるいは死に行く場所)にしたロード・ムーヴィー・ノワールとでもいうべき作品が少なからず存在する。ウルマーの『恐怖のまわり道』(45)、アンソニー・マンの『Desperate』(47)、ウォルシュの『夜までドライブ』、ジョセフ・H・ルイスの『拳銃魔』(50)などがその代表作になろう。本来ならばどこまでも開かれたハイウェイは自由へと続く道であるはずであるが、これらの作品においては、道路は次第に重苦しく閉ざされてゆく閉鎖空間と化し、登場人物たちを次第に出口なしの状況へと追い詰めてゆく。『Plunder Road』は強奪映画であると同時に、こうしたロード・ムーヴィー・ノワールの系譜に連なる作品の1つとして、十分注目に値する作品であると思う。