明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

フランスの郊外

いまフランスがたいへんなことになっている。日本のメディアでもようやく伝えられはじめたが、10日ほど前からフランスでとんでもない暴動騒ぎが起きている。

パリ郊外のクリシーヘンリー・ミラー『クリシーの静かな日々』という小説がある。シャブロルが映画化)で、警官に職務質問された移民系の若者が逃げ込んだ先の変電所で感電死した事件に端を発した暴動が、フランス全土に拡大し、いまだに事態が収束する兆しが見えていないのだ。政府は強硬な姿勢を見せ、逮捕者も多数出ているが、ほとんど効果を上げていない。この10日あまりのあいだに車だけでも数千台が放火され、保育園までもが放火されるなどして、すでに死人も出ている。サルコジ内相が暴動を起こした若者たちを「ごろつきたち」と呼んだことが、さらに彼らを刺激している(わたしはこのサルコジという奴がむかしからどうも好きになれない。野心家で、エリート主義者で、見え見えのパフォーマンスを恥ずかしげもなくおこなう典型的な「政治家」だ)。

暴動の背景にはフランスの移民政策の失敗があることは間違いない。郊外の「低家賃住宅」HLM(というと聞こえがいいが、用は貧乏人用のスラム)に彼らを押し込んでやっかい払いしてきたつけがいまになって回ってきたというわけだ。この問題はいまにはじまったわけではない。甘い恋愛映画ばかりを見ている人は知らないだろうが、フランス映画をちゃんと見ている人は、大むかしからこういう問題が存在していたことを知っているはずだ。

あまり大した映画ではないがマチュー・カソヴィッツ『憎しみ』がこの問題を正面から描いていたことが、最近では記憶に新しい。パリ郊外の貧民の町で少年が警察から暴行を受けたことがきっかけで大暴動が起きるまでを、フレンチ・ラップに乗せて描いた作品だ。以前見たときは多少大げさに思えたが、いま見直すと予言的にさえ思えてくる。ジャン=クロード・ブリソーの『かごの中の子供たち』も郊外の暴力を描いた映画だった。

郊外についてもっと考えたい人は、宮台真司『まぼろしの郊外』堀江敏幸『郊外へ』などを読むとよい。