わたしが見た鈴木英夫作品の中ではこれが一番面白かった。スクープを取るためには恋人さえも犠牲にする事件記者(三橋達也)が、結局自分も社会の歯車の一つとして押しつぶされてゆく様を描く。自分の書いた記事で人が死のうがどうしようが意に介さない憎々しげな新聞記者が、それよりも非情な社会の仕組みによって、最後は犠牲者となる。この憎悪をかき立てると同時に、哀れをも催す野心家の記者を三橋達也が見事に演じている。この作品で鈴木英夫を少しは見直したが、やはり作家主義によって「作家」にされてしまったひとりという印象は変わらない。取り立てていうほどの個性も文体もない職人監督という気がする。しいていうなら、この映画の三橋達也のような、欲望にとりつかれた人間を描く際のクールなタッチに特徴があるといったところか。司葉子がストッキングをはくシーンにはどきどきさせられた。