明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

as the actress said to the bishop


"as the actress said to the bishop" という表現がある。宮脇孝雄『翻訳の基本』という本を読んでいてはじめて知った表現なのだが、この本のなかでは、

  I've never seen a female "Bottom", as the Bishop said to the actress!

という例文を挙げて、

これは「何かを装って、最後にひっくり返す」という決まり文句だそうである。つまり、先の例なら、


女性のお尻なんて見たことありませんね。


という意味だと思わせておいて、「主教が女優にいいました」のところで「なんだシェイクスピアの話か」と落ちをつけるわけだ。

と説明してある。ここでは "Bottom" が「お尻」の意味であると同時に、シェイクスピアの戯曲の登場人物の名前でもあることが言葉遊びの焦点になっているのである(ちなみに、bishop と actress の順番はこの例のように逆になることも多い)。しかし、なんだかあまりしっくりこない説明なので、いろいろと調べてみた。この表現は大型の英和辞典にしか載っていないようだ。『リーダーズ』と『ランダムハウス』には actress の見出しで次のような説明があった。


 『リーダーズ』では、「《口》 [joc.] 変な意味じゃなく, 普通の意味で.」([joc.] は jocular つまり「ふざけて」の意)
 『ランダムハウス』では、「《話/おどけて》変な[いやらしい]意味で言ったのではありませんが.」


と書いてある。

宮脇の説明では少しわかりづらかったのが、この『リーダーズ』と『ランダムハウス』の説明でかなりはっきりした。さっきの例文は、I've never seen a female "Bottom" といっておいてから、いやいや "Bottom" は変な意味(お尻の意味)でいったんじゃありませんよとつけ加えたことになる。

しかし、これだけではまだわかりにくい。両辞典ともこの表現はふざけて用いられるものだといっている。ということは、変な意味で言ったと誤解されるのを防ぐためにこの表現をつけ加えるというよりは、この表現をつけ加えることによって暗に変な意味を持たせてしまうということの方にどうやらウエイトがあると見たほうがいいらしい。


辞書ではらちがあかないのでネットで調べてみた。いくつか見つかったこの表現の定義を以下に引用する。

"A jocular catch phrase that draws attention to an otherwise innocent statement by imbuing sexual innuendo. Other variations include "as the mistress said to the gardener".

"This idiom is used to highlight a sexual reference, deliberate or accidental."

"used to highlight a sexual ambiguity in an innocent remark
Heavens, that's a big one - as the actress said to the bishop."

"bishop" と "actress" が具体的にだれを指すかについてはいまだに謎らしい。しかし、この表現が性的なニュアンスを含んでいるというのが大方の意見のようだ。宮脇の本でも、『リーダーズ』『ランダムハウス』でも、自分が言った発言に対してこの表現を用いるというニュアンスで説明がなされているが、どうもこの表現は他人の言ったセリフについても用いられるようである。なにげに相手が言ったセリフに対して、"as the actress said to the bishop" とつけ加えるだけで、たちまちそこに性的なコノテーションが生まれるというわけだ。

しかし、あるサイトではこの表現について

"This is a very old tag line. You add it on to the end of your own, or other people's sentences." と説明したあと次のような例文をずらりと列挙していた。

"God, that's small".."as the Actress said to the Bishop."
"I'll have another".."as the Actress said to the Bishop."
"Put it down".."as the Actress said to the Bishop."
"Yes".."as the Actress said to the Bishop."
"No".."as the Actress said to the Bishop."
"Not if you paid me in diamonds".."as the Actress said to the Bishop."
"Pull the other one, it's got bells on".."as the Actress said to the Bishop."
"Have you got something longer?".."as the Actress said to the Bishop."
"Help me get it up?".."as the Actress said to the Bishop."
"I bet you liked that!".."as the Actress said to the Bishop."
"Take that off!".."as the Actress said to the Bishop."
"Be on time".."as the Actress said to the Bishop."

"God, that's small" の性的な意味合いは明らかだとしても、"I'll have another" にそのような意味があるのかどうか、innocent なわたしにはわかりかねる(ちなみに、このサイトでは、この表現に性的な意味合いがあるとはいっていない)。

"Be on time"(時間を守れ)のあとに "as the Actress said to the Bishop." をつけ加えることでどう意味が変わるというのか。まだこの表現は謎を残したままだ。だれかわかる人がいたら教えてほしい。