明るい部屋:映画についての覚書

日々の映画鑑賞と研究の記録、最新DVD情報などなど。ときどき書評めいたことも。


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神戸映画資料館「連続講座 20世紀傑作映画再(発)見」第15回
国辱映画『チート』とサイレント時代の知られざるデミル
詳細はここで。

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評価の目安:

★★★★(大傑作、あるいは古典)
★★★(傑作、あるいは必見)
★★(見たほうがいい)
★(興味深い)

(基本的に、興味のない映画はここでは取り上げません。なので、ここで話題にしている時点で、それなりに見る価値はある作品であるといえます。)

2016-01-01から1年間の記事一覧

W・C・フィールズについての覚書1——『進めオリンピック』

「2,3年前私は、個人的な楽しみとしてもう一度見たい映画は何か、と大学生たちに聞かれたことがある。私はためらうことなく『我輩はカモである』と『進めオリンピック』だと答えたが、その2本の映画がまさか関連があるとは知らなかった。しかし、それら2…

アピチャッポン・ウィーラセタクン『メコンホテル』

アピチャッポン・ウィーラセタクン『メコンホテル』★★ アピチャッポン・ウィーラセタクンは映画作品を発表する一方で、映像を用いたインスタレーション作品を中心にした美術の個展をたびたび開いてきた。それらのインスタレーション作品は、彼が撮ろうとして…

新作DVD――マノエル・ド・オリヴェイラ『ブロンド少女は過激に美しく』、加藤泰『骨までしゃぶる』、小川紳介『1000年刻みの日時計 牧野村物語+京都鬼市場・千年シアター(2in1)』ほか

DVD

輸入盤からも気になるものを何本か。ツイッターではだいぶ前にふれたけれど、ここでは紹介していなかったものもついでに。まだまだあるけれど、追々。 エドワード・ヤン『牯嶺街少年殺人事件』(The Criterion Collection) [Blu-ray] ジャック・リヴェット『O…

リチャード・クワイン『媚薬』『求婚専科』

リチャード・クワインのことなどいまさら話題にしてもさして興味を引かないだろうことはわかっている。たしかに偉大な監督とはいえないだろう。つまらない作品もたくさん撮っている。しかしわたしはかれが撮った何本かの作品が本当に好きなのだ。とりわけ『…

アルトゥーロ・リプスタイン『純粋の城』

アルトゥーロ・リプスタイン『純粋の城』(El castillo de la pureza, 73) ★★½ メキシコ映画史に残るカルト作品。 これはたぶん実話の映画化なんだろうなというのは、見ているときになんとなく感じてはいた。信じがたい事件を描いてはいるが、もし本当の話だ…

『高慢と偏見とゾンビ』、『希望のかたわれ』

最近読んだエンタメ系の小説を2冊、簡単に紹介する。 ジェーン・オースティン+セス・グレアム=スミス『高慢と偏見とゾンビ』 サマセット・モームが「世界の10大小説」の一つに選んだ文学の古典、ジェーン・オースティンの『高慢と偏見』に、ゾンビという…

新作DVD――『珠玉のフランス映画名作選 DVD-BOX 2』『長く熱い週末』ほか

DVD

『珠玉のフランス映画名作選 DVD-BOX 2』 サッシャ・ギトリ『あなたの目になりたい』、ジャン・ルノワール『ショタール商会』、ジュリアン・デュヴィヴィエ『幻の馬車』、ジャン・グレミヨン『高原の情熱』、アベル・ガンス『失楽園』の5作品を収録。 第1弾も…

ジュリアン・デュヴィヴィエ『殺意の瞬間』ーーデュヴィヴィエとトリュフォーの密かな関係

「もしも私が建築家で、映画のモニュメントを建てることになったなら、入り口にはデュヴィヴィエの銅像を置くだろう」ジャン・ルノワール ジュリアン・デュヴィヴィエ『殺意の瞬間』(Voici le temps des assassins*1, 1956) ★★ 第二次大戦を機にアメリカに渡っ…

ジャック・ゴールド『恐怖の魔力/メドゥーサ・タッチ』

ジャック・ゴールド『恐怖の魔力/メドゥーサ・タッチ』(The Medusa Touch, 78) ★★ サイコキネシス(作中では「テレキネシス」という言葉が使われている)をテーマにしたオカルト・ミステリー。日本では未公開だが、カルト的な人気があり、allcinema では 9.…

ジョン・H・オウア『眠りなき街』——都市の声、機械人形の涙

ジョン・H・オウア『眠りなき街』(City That Never Sleeps, 53) ★★½ これまでも折にふれてフィルム・ノワールの変種をいろいろ紹介してきたが、この作品もまたフィルム・ノワール史上まれに見る風変わりな作品のひとつと言ってもいいかもしれない。 * * * …

新作DVD――ジャン・ルノワール『十字路の夜』、エレム・クリモフ『炎628』ほか

DVD

ウィリアム・A・ウェルマン『飢ゆるアメリカ』 [DVD] ウェルマンには数々の傑作があるが、30年代のいわゆる「プレ・コード」時代に撮られた作品群は格別だ。なかでもこの『飢ゆるアメリカ』は、第一次大戦の終結から、大恐慌、そしてニューディール政策へ…

クリスチャン=ジャック『聖アジール学園消失事件』――戦争の不安を背景にしたミステリアスな子供映画の傑作

「フランス映画の墓堀人」と呼ばれた批評家時代のフランソワ・トリュフォーが「フランス映画のある種の傾向」と題された記事のなかでドラノワやオータン=ララといった巨匠たちを痛烈に批判し、結果的に、彼らを半ば葬り去ってしまったことはよく知られてい…

スティーヴ・エリクソン『ゼロヴィル』――映画は世界の始まりから存在している

"I believe that cinema was here from the beginning of the world."Josef von Sternberg Everybody say, "Is he all right?" And everybody say, "What's he like?" Everybody say, "He sure look funny." That's...Montgomery Clift, honey!The Crash "Th…

アンドレ・ド・トス『おとし穴』――郊外のフィルム・ノワール

アンドレ・ド・トス『おとし穴』(Pitfall, 48) ★★½ ディック・パウエル演じる保険会社の調査員ジョンが、会社の金を横領したかどで逮捕された男の愛人モナ(リザベス・スコット)の住む家を訪ねる。男が女に貢いだ品物のリストを作って、損失の一部を回収す…

ポール・ヘンリード『誰が私を殺したか?』

ポール・ヘンリード『誰が私を殺したか?』(Dead Ringer, 64) ★½ 俳優として有名なポール・ヘンリードが監督したサスペンス映画。原題はクローネンバーグの『戦慄の絆』を思い出させるがまったく関係はない。『何がジェーンに起ったか?』と『ふるえて眠れ』…

セルジュ・ダネーによるサミュエル・フラー論「物語への狂熱」

全体の4分の一程度の抄訳。ま、いつもの適当訳です(といいつつ、一応ちゃんと訳したつもり)。気が向いたら続きも訳します。 「物語への狂熱」(Fureur du recit*1)セルジュ・ダネー ゼロの観客フラーの作品が50年代のフランスの批評家の一部にかくも気に…

新作DVD――『イット・フォローズ』、『パルチザン前史』ほか

DVD

デヴィッド・ロバート・ミッチェル『イット・フォローズ』 [Blu-ray]、『イット・フォローズ』 [DVD]タランティーノらに絶賛されたニュー・ホラー。一瞬、ジャック・ターナー的と思わせるプールは、壮絶なアクションの場になる。 『ネオ・レアリズモ傑作選 B…

サイ・エンドフィールド『アンダーワールド・ストーリー』

サイ・エンドフィールド『アンダーワールド・ストーリー』(Underworld Story, 50) ★★★ 才能ある監督でありながら、サイ・エンドフィールドは日本ではあまり人気があるとはいえない。それどころか、作家としてもあまり認知されていないような印象さえ受ける…

幽閉と狂気――アドゥール・ゴーパーラクリシュナンについての覚書

一昔前は、日本でインド映画といえば後にも先にもサタジット・レイ(「レイ」ではなく「ライ」と読むのが正しいらしいのだが、いまさら言われてもなぁ)のことだった。やがて、『ムトゥ 踊るマハラジャ』でインド製ミュージカル映画の空前のヒットと共にイン…

『The Lost Moment』『私刑の街』

どっちもそんなにたいした映画ではないのだが、こういう地味な作品を救い出してゆくのがわたしの使命(?)なので、紹介しておく。 マーティン・ガベル『The Lost Moment』(47) ★½ヘンリー・ジェイムスの小説『アスパンの恋文』の最初の映画化(Amazon のコ…

最初と最後のロッセリーニ——『白い船』と『メシア』についての覚書

『白い船』(La nave bianca, 41) ★★½ 映画作家ロベルト・ロッセリーニのキャリアは、ムッソリーニによってイタリアが統治されていたファシズム時代のまっただ中に始まった。『白い船』はロッセリーニが撮った最初の長編劇映画である*1。海外では、この映画が…

新作DVD――『三里塚シリーズ DVD BOX』、ジャン=ピエール・メルヴィル『サムライ』、ミア・ハンセン=ラヴ『EDEN/エデン』ほか

DVD

小川紳介『三里塚シリーズ DVD BOX』 新国際空港の建設を巡る激しい闘争、そして人間の姿を克明に記録したBOXセット。『日本解放戦線 三里塚の夏』、『日本解放戦線 三里塚』、『三里塚 第三次強制測量阻止斗争』、『三里塚 第二砦の人々』、『三里塚 岩山に…

マリオ・ソルダーティとカリグラフ派についての短い覚書

「カリグラフィスム」(イタリア語で「カリグラフィスモ」、あるいは「チネマ・カリグラフィスタ」)は、1940年代前半にイタリアで制作された映画作品について使われる言葉で、この時代の「映画の流派(傾向)」のひとつ。複雑な表現、文学作品を原作として…

ロバート・シオドマク『大いなる罪びと』――ギャンブル、エヴァ・ガードナー、そしてゴダール

ロバート・シオドマク『大いなる罪びと』(The Great Sinner, 49) ★★½ 『The Rocking Horse Winner』、『スペードの女王』……。偶然なのだが、なぜか最近、ギャンブルをテーマにした映画を見ることが多い。今回紹介するこの『大いなる罪びと』もまた賭けを描い…

ロイ・ウォード・ベイカー『The House in the Square』

ロイ・ウォード・ベイカー『The House in the Square』(51) ★★ 20世紀を生きる科学者がふとしたきっかけで19世紀にタイムスリップし、そこで恋をする。そんな物語にいまさら何の興味がある? と思いながら見はじめたのだが、これがなかなか良くできていて、…

『スペードの女王』とソロルド・ディキンソンについての覚書――イギリス映画の密かな愉しみ2

ソロルド・ディキンソン『スペードの女王』(The Queen of Spades, 49) ★★★ 『Rocking Horse Winner』もなかなかの拾い物であったが、この『スペードの女王』は文字通りの傑作であったといっておこう。これも小説を映画化した原作ものであるが、とにかく出来…

アンソニー・ペリッシャー『The Rocking Horse Winner』──イギリス映画の密かな愉しみ1

グリアスンらによるドキュメンタリー運動、イーリング・コメディ、フリー・シネマ、ハマー・プロ……、といった映画史の概説に出てくるような事柄なら知ってはいるし、多数の作品を見てもいる。しかし、それ以外に自分はイギリス映画のことをどれだけ知ってい…

新作DVD――『圧殺の森』『ラブバトル』『法律なき町』ほか

DVD

『ハリウッド刑事・犯罪映画傑作選 DVD-BOX 1』『危険な場所で』(ニコラス・レイ)、『静かについて来い』(リチャード・フライシャー)、『高い標的』(アンソニー・マン)、『暗黒の恐怖』(エリア・カザン)、『武装市街』(ルドルフ・マテ)の5作品を収…

クロード・ファルラド『テムロック』――アナーキー・イン・フランス

クロード・ファルラド『テムロック』(Themroc, 1973) ★★★ またしても奇妙奇天烈な映画を発見してしまった。いろんな映画を見てきたつもりだったが、まだこんなものが残っていたとは。つくづく映画とは奥が深いものだ。それにしても、アンダーグランドの底深…

ウジェーヌ・グリーン『La Sapienza』についての覚書

ウジェーヌ・グリーン『La Sapienza』(2014) ★★½ ただの覚書。 ほとんど棒読みのような抑揚のない台詞回し(アルティキュラション、書き言葉的なリエゾン)、カメラに真正面向いて話す俳優たち、そのミニマムな演技。似て非なるものだとあらかじめ断った上で…